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出自を知る権利とは?精子提供を受けての不妊治療に残された課題を考える | Marbera

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2021/11/17

日本では精子提供を受けての不妊治療は原則認められていない

不妊の原因はいくつもあり、不妊治療をさらに細かく分けて人工授精、体外受精と治療法ごとに考えても、必要な医療は人によって大きく異なります。なかには精子提供や卵子提供なしには妊娠することができない状態の人もいますが、現在日本では原則的に精子提供を受けての不妊治療が認められていません。

遺伝子的な問題や戸籍問題など、その背景にも複数の課題があります。なかでも議論にあがることが多く、実際法整備が進められようとしている課題のひとつが精子提供によって生まれた人の出自を知る権利です。

出自を知る権利に焦点を当て、精子提供が必要なケースや出自を明確にすることのメリットやデメリットなど、精子提供を受けての不妊治療の課題をご説明します。

不妊治療中の人や精子提供を検討している人は、客観的に課題を整理できるようになるでしょう。

不妊治療において精子提供が必要になるケース

そもそも不妊治療で精子提供が必要とされるのは、男性側に不妊の原因がある場合です。しかし、不妊治療が必要とされるケースでは、不妊の原因がひとつとは限りません。つまり、男性側に不妊の原因がある場合だけでなく、男性も女性にも不妊の原因があるということも考えられます。

男女ともに不妊の原因があるケースを含めると、男性側にも何らかの不妊原因があるというケースは全体の不妊の約半数にのぼると考えられています。もちろん何らかの治療をすれば不妊が改善されることがあるため、このすべてで精子提供が必要ということではありません。

不妊治療において精子提供が必要になるケースはいくつか考えられます。まずは妊娠のために精子提供が必要なケースを確認しておきましょう。

精子提供を受けた人工授精

男性に精子が存在しない場合や、男性の異常精液所見の原因が染色体異常にあり、子への遺伝が危惧される場合で、かつ女性側に不妊原因がないと考えられる場合には精子提供を受けた人工授精で妊娠できる可能性があります。

ただし、不妊の原因には医学的に解明されていないことも多いため、人工授精で妊娠可能な状態なのか、もしくは体外受精が必要な状態なのかは実際に何度か人工授精を試してみないとわからないということも少なくありません。実際、人工授精1回あたりの成功率は約10%程度と考えられています。

精子提供を受けた体外受精

人工授精同様、男性に精子が存在しない場合や、男性の異常精液所見の原因が染色体異常にあり、子への遺伝が危惧される場合で、数回に渡る人工授精で妊娠に至らなかった場合や女性側にも不妊因子があり体外受精でないと妊娠が難しいと考えられるケースでは、精子提供を受けた体外受精が必要となります。

精子提供を受けた不妊治療の実情

原則として精子提供を受けての不妊治療は、現段階では日本では認められていないということはすでにお伝えしました。「原則として」というのは、これが法的な問題ではなく、倫理的な問題を大きな課題として日本産科婦人科学会などのガイドラインによるものだということです。

しかし実際には医師や病院の判断により、精子提供による人工授精は日本でも長期に渡って行われていて、体外受精においても一定のガイドラインを設けた上で実施している病院があります。

精子提供を受けた不妊治療の現在の問題点

このように、精子提供による不妊治療がいわゆるグレーな状態におかれていることで、個人間での精子提供が行われてトラブルに発展したり、精子提供に高額な金銭のやりとりが発生するような商業的要素が介入したり、さらには精子提供を受けての体外受精のために海外で治療を受けるというケースが見受けられるようになり、精子提供はじめ非配偶者間での精子や卵子提供を必要とする不妊治療について、早急に法整備が必要だという認識が広まっています。

精子提供を受けた不妊治療について、法的整備が必要とされるもうひとつの課題が「出自を知る権利」です。これはこの記事のメインテーマでもあるため、もう少し詳しくご説明します。

出自を知る権利とは

精子提供を受けての不妊治療が、実際にはすでに行われてきたということはおわかりいただけたでしょう。また、日本以外の国ではすでに不妊治療において精子提供が認められている国も存在します。このように、すでに精子提供によって不妊治療が行われたあとの課題として挙げられるのが、出自を知る権利です。

出自を知る権利というのは、非配偶者間での精子や卵子提供によって生まれた人自身が、自分が一体誰の遺伝子によって生まれたのかということを知る権利のことです。すでに非配偶者間の精子や卵子提供が認められている国でも、その多くがもともとはその精子や卵子が誰によって提供されたかということが明確にされていなかったという背景があります。

出自を知る権利を守るメリット

出自を知る権利が課題とされるようになったのは、実際精子や卵子提供を受けて生まれた人がそれを知ったときに、では自分は一体誰の遺伝子を持って生まれているのかということを疑問に思い、さらにはそれを原因として「自分が誰だかわからない」といったような気持ちになることがあるからです。

自分が誰だかわからないというのはいわばアイデンティティの喪失やアイデンティティの混乱ともいえる状態で、多くの人がそれに悩まされている現状があります。

アイデンティティの問題以外にも、たとえば一人のドナーが多くの精子提供を行った場合、出自を知らないままでは同じ遺伝子を持つ人同士がそれを知らずに婚姻関係を結ぶといった可能性がでてきます。その後妊娠や出産に至ることになれば近親交配と同じことになり、先天的遺伝子異常などの原因のひとつにもなりかねません。

出自を知る権利の現状

これを受けて、たとえばスイスやオーストリアでは一定の年齢を超えていれば個人を特定できる範囲でドナー情報の開示請求が法的に可能になっています。また、イギリスやドイツでは一定の年齢を超えていれば個人を特定できない範囲でのドナー情報の開示請求が法的に可能です。

日本では、現在出自を知る権利が法的に守られてはいないため、ドナー情報の開示請求はできません。しかし、精子提供を受けての不妊治療同様、こちらも早急な法整備が必要な課題として検討が進められています。

出自を知る権利が守られるデメリット

そもそも精子提供や卵子提供を受けて生まれた人にドナー情報が開示されないことにも理由があります。たとえばドナーの個人を特定できる範囲でのドナー情報が開示されることになると、後にドナーが結婚や出産をしたあとにそれが家族に知られることとなりトラブルのもとになる可能性があります。また、そのような懸念が出てくることでそもそもドナーの数が減少してしまうという可能性も考えられます。

また、ドナーがそのあと遺伝的な病気などにかかった場合、そのドナーの精子から生まれた人が余計な不安を抱えて生きていくことになりかねないという問題なども挙げられています。

生殖医療に関する法律や法整備は変わりつつある

第三者の精子や卵子提供を受けての妊娠、出産というのは出産する本人やその配偶者、提供者であるドナー、そして生まれて来る子供という複数の人が関わる問題です。それぞれに人権があり、それに関する考え方も様々であり、ここで一概にどうあるべきかを伝えられるようなことではありません。

一方で、多くの人が「一般的なこと」として自然に思い描いてきたような子供を持つということが、第三者の精子や卵子の提供なくして実現できない人がいるというのも事実です。

精子提供や出自を知る権利についてだけでなく、不妊治療の保険適用など生殖医療に関する法律や法整備は大きく変わりつつある、いわば過渡期ともいえる状況です。不妊に悩む人や不妊治療を検討中の人、そして不妊治療中の人などは、治療や妊娠、出産そのものに対する意識をあわせるためにも、精子提供や出自を知る権利がどうあるべきか、一度夫婦で客観的な意見を交わし合ってみても良いかもしれません。

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