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仕事と不妊治療の両立は難しい……解決策はないのか? | Marbera
Marbera運営事務局
2023/03/07
不妊治療が保険適用になったことで、かなり身近な治療になったのではないでしょうか。
とはいえ、仕事との両立はなかなか難しいのが現状のようです。
“不妊退職”の実態
平成29年度の厚生労働省(以後、厚労省)「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」の報告によると、約4人に1人の女性が仕事と治療の両立ができず“不妊退職”していました。
また2020年に、NPO法人Fineは不妊退職による経済損失は、約1,345億3,363万円と発表しています。
平成29年総務省統計局「労働力調査」では、全雇用者総数に占める女性の割合は44.5%です。
男性の割合が半数以上を占めていますが、男女差はそれほど大きいものではなく、女性の社会進出が目まぐるしく増加しているのがわかります。
その一方で、男性の長時間労働者の割合は国際的に見ても高いことが報告されています。
女性雇用者が増加しているということは、昭和初期のような結婚後は専業主婦があたりまえの時代から大きく変化し、共働き世帯が増えていることが容易に想像できます。
そして長時間勤務の男性が多いということは、共働きであっても家事を女性が担う割合が高く、仕事だけではなく家事に費やす時間も増えているのがわかります。
そこに不妊治療という、予期せぬイベントが家庭内に舞い込んできた場合、あなたならどうするでしょう。
私なら、これまでのキャリアを維持するために、仕事も家事も、さらには不妊治療までも我武者羅に頑張ってしまうかもしれません。
仕事と不妊治療の両立は難しい
仕事と不妊治療の両立が難しい理由は何なのでしょう?
平成29年度の厚労省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」では、
- 精神面で負担が大きいため
- 通院回数が多いため
- 体調、体力面で負担が大きい
といった回答を得ています。
特に通院回数の多さに負担を感じている方は多いようです。
不妊治療は、女性の月経周期に合わせた検査や治療が多くあります。
そのため事前に通院の予定を立てていても、治療で使用する薬剤の影響で体調の変化を起こし、急な休暇や早退、遅刻なども起こり得るのです。
治療をしたら必ず妊娠するという保証もないため、この状態がいつまで続くのだろうと不安を感じている方も多いのが現状です。
不妊治療を秘密にしている人は多い
では不妊治療を受けることを、職場の方には伝えているのでしょうか。
以下のグラフからもわかるように、不妊治療を受けることを「一切伝えていない(伝えない予定)」のカップルが半数以上もいます。
その理由は「不妊治療をしていることを知られたくないから」、「周囲に気遣いをしてほしくないから」というものです。
プライバシーに関することですし、確実な結果が伴う治療ではないので、職場に伝えるの並々ならぬ勇気がいると思います。
嫌がらせを受けたという人も
このグラフは、不妊治療について職場の一部にでも伝えている人からのアンケート結果です。嫌がらせ等があったかどうかを表しています。
複数回答のため嫌がらせを受けている方は少ない印象ですが、まだまだ理解のない上司や同僚が多いのがわかります。
私が相談を受けた方にも、やはり職場の雰囲気で働きづらさを感じている方が多かったです。
育児中の方は、保育園の送迎や子どもの発熱等による急な休暇は「仕方がないこと」と認めてもらえるのに、不妊治療に関しては、前日または数日前に休暇の申請をしているにもかかわらず、おもむろに嫌な顔をしてくるので泣きたくなると訴える方もいました。
特に独身の女性の上司は、なかなか理解を示してくれないと訴えます。
逆に、子どもを授かるのに時間を要した経験のある男性上司は、労いの言葉をかけてくれるので嬉しくなるという声も耳にしました。
自分の経験していないことは理解しづらいものですが、お互いの立場を理解し合い、サポートし合わないと、素晴らしい人材でも退職を選択してしまいます。
退職者が出れば人員補充のために費用が発生しますし、教育もやり直さなければなりません。
従業員の退職は企業にとって重大な損失ですが、コスト意識の低い企業ではそういった認識すらされていないケースが散見されます。
仕事を続けるには職場の理解が不可欠
以前は「不妊様」という言葉がありました。
不妊治療中の方を揶揄するものです。
不思議なもので育児中の方の行動は、そのような批判めいた表現はあまり聞きませんよね。
もちろん不妊治療中はとっても忙しく、仕事だけではなく家事も、そして通院のために月経に合わせた時間の調整をし、休暇を申請するということを考えただけでも頭が混乱しそうです。
その状態でイライラせずに全部をこなそうとすると、できない自分を責めて「退職」を考えてしまうのも無理はないと思うのです。
だからこそ不妊治療について、一般の方にも理解していただきたいのです。
そうすることで退職という選択を減らし、企業にとっても、不妊治療中のあなたにとっても、winwinの関係であるのが理想です。
でもそのためには、どうしたらいいのでしょう……?
国も不妊治療の支援に動いている
厚労省は「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」の結果をもとに、不妊治療と仕事の両立のために「不妊治療連絡カード」を作成しています。
いわゆる大企業、または女性職員の多い企業ではすでに導入されており、休みやすい環境や通院しやすい環境を目指しています。
しかし、一般の企業でこのカードの存在をご存知の方はどれくらいいるのでしょう?
厚労省では令和4年4月1日から、不妊治療と仕事の両立を支援する中小企業の事業主に対して、助成金の支給を開始しました。
詳細は省きますが、以前に比べると、国も企業も不妊治療を選択される方に対して、かなり歩み寄ろうとしているのを感じます。
保険適用で経済的な負担が軽減される方が多いですが、それでも、まだまだ負担の多い不妊治療です。
プライバシーを守りつつ、仕事を継続しながら治療に臨めるのが、お互いのために最高のチョイスです。
不妊治療を“苦しみ”にしないために
それでも辛い気持ちになる方は、もちろん「辞める」という選択をしても大丈夫です。
仕事のストレスが身体に影響を与えることはよくある話です。
眠れないほど、食べられないほど、逆に過食になるほどのストレスを感じているのに、上手く対処できていない方は、肥満や痩せといった身体に影響を及ぼします。
そして仕事を辞めたとたんに妊娠したという話もよく聞きます。
仕事のストレスのはけ口がパートナーに向いてしまう方は、それが原因で離婚という最悪の事態に繋がることもあります。
不妊治療が原因での離婚もよく聞きますが、それでは本末転倒です。
できればあってほしくないものです。
何でも自分のせいだと決めつけないで
ところで、仕事と不妊治療の両立をすることが、「職場に迷惑をかける」と考える方がいます。
こう考えるあなたはとても「優しく」「真面目」な性格なのでしょう。
でもあなたの周りの同僚を見てみてください。
他人に迷惑をかけているのに、気付いていても気にせず休暇を取る人はいませんか?
場合によっては「そんな理由で?」と思いたくなるような事がまかり通っていたりしませんか?
不妊治療を始めるまでは、一生懸命職場のために頑張ってきたあなた。
その努力や実績は誰もが認めているはずです。
仕事を辞めるのは簡単です。
白い便箋と封筒を用意して一筆書けばおしまいです。
でも、あなたの積んだキャリアを活かせる次の職場があるでしょうか。
さらに妊娠した後はどうなりますか?
産休・育休を取得しやすい環境であるなら「職場に迷惑をかけるから」という考えの前に、「今だけ甘えさせて」という考えにシフトできませんか?
胸を張って、周りの人を頼ってください
会社の上司、同僚全員に不妊治療について話す必要はありません。
国が「子どもを欲しい」と切に願う人のために、仕事との両立ができるよう支援してくれています。
少しずつ変わろうとしている日本社会を信じて、使える制度はどんどん利用して、両立させてほしいです。
あなたならきっとできます。
そして、仕事と治療の両立のために忘れてはいけないもう1つのこと、それは夫婦間の家事の分担です。
サザエさんで象徴されるような昭和の家庭は、今の時代、ほとんど存在しません。
ふたりで働き、家計を支えているのですから、堂々と家事を分担しましょう。
定期的にカップル会議を開催し、見えない家事まで見える化を図り、ひとりで抱え込むことをやめましょう。
だって、不妊治療は二人のお子さんを持つための治療ですから。
苦しいことがあったら、我慢せず吐き出し、吐き出したら笑顔で前に進んでください。
応援しています。
【参考】厚労省の不妊治療支援
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