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ARTでの妊娠は妊娠糖尿病になりやすい?体外受精と妊娠糖尿病との関係

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体外受精(ART)での妊娠に関するリスクを理解することの重要性
不妊治療を受けている人の中には、妊娠こそがゴールと考えてしまう人がたくさんいます。もちろん、特に長期的に不妊治療を続けている人や、一度も陽性反応に至っていない人にとっては、妊娠するということがひとつの大きな目標であるということは事実です。実際、たとえば産科を持たず不妊治療を専門としている病院では、妊娠が成立し、一定期間継続していることを認めた時点でクリニックを卒業することになり、そこからは産科へ転院して出産まで通い続けることになります。
しかし、子供が欲しくて不妊治療をしているということは、妊娠というのは無事に出産するまでのひとつの過程でしかありません。
筆者も2年以上体外受精による不妊治療を続けてきました。これまで5回の移植のうち、一度は陽性反応が出て胎児の心拍も確認できたものの、妊娠9週の時点で稽留流産となりました。このとき、形式的には不妊治療の書類上これは「妊娠成立」ということになるということを改めて知りました。つまり、生殖医療では妊娠が成立すること、それが順調に継続すること、そして無事に出産に至ることというのはすべて別のことと考えることもあります。けれども、子供を望む人にとっては、当然これはすべて同一のことであり、出産に至らない限り本来の目的は達成されません。
体外受精での妊娠でリスクが上がることがある
不妊治療や体外受精に関する技術は、まだまだ研究段階にあり、医学的に解明できていないことがたくさんあります。体外受精が妊娠中の母体や胎児に与える影響というのもそのひとつであり、すべてのことがわかっているわけではありません。特に妊娠や出産というのは、同一の人物を使って全く同じ状況で再現することができるものではなく、妊娠に影響を与えたものが体外受精だけなのか、その他の生活上の問題や体質的な問題も含まれるのか、などを判断するのが非常に難しいものでもあります。
そのため色々な見解がありますが、統計データなどでは体外受精が妊娠リスクに影響を与えることがあるという結果があるのは事実です。
体外受精での妊娠のリスクをどう考えるか
体外受精無事に出産することを目標として考えるのであれば、体外受精のリスクを理解するのはとても重要なことです。たとえば不妊治療の過程で、タイミング法や人工授精からのステップアップを検討している人もいますよね。ここでは詳しい内容は割愛しますが、人工授精というのはより自然妊娠に近い方法なため、妊娠の確率としては体外受精よりも低いものになります。年齢や血液検査、精液検査の結果などによっては、人工授精でも妊娠が望める可能性はあるものの、人工授精で時間を費やすよりも今すぐ体外受精にステップアップしたほうが効率的なのではないかと悩むこともあります。
そんなとき、妊娠の確率や不妊治療にかけられる予算や期間だけでなく、体外受精のリスクも鑑みた上で検討することも重要です。また、すでにお伝えしたように、不妊治療専門の病院では産科を併設しておらず、妊娠後は出産するための病院に転院する必要があるケースも少なくありません。中には体外受精での妊娠のリスクを考慮し、総合病院を選んだという人もいます。もちろん体外受精で妊娠した人のすべてがハイリスクになるわけではないため、何を優先して産院選びをするかは人によって異なります。あくまでもリスクに過剰に怯えるということではなく、「予め知っていたら別の選択肢もあったのに」と後悔してしまわないために、ひとつの検討材料として理解しておきましょう。
体外受精(ART)での妊娠で考えられるリスク
では、体外受精での妊娠が妊娠中のリスクに与える影響を具体的にご説明します。
2019年に発表された国内全国規模の大規模コホート研究であるエコチル調査の結果では、自然妊娠のケースと比較して、ART技術を介して妊娠した場合、前置胎盤、癒着胎盤、帝王切開、輸血、ICU管理、早産が増えるということがわかりました。
前置胎盤や癒着胎盤などは大量出血の原因になることも多く、輸血やICU管理が増える一因でもあります。先述の通り、妊娠や出産に関することは複数の因子が影響することも多いため、ARTの何が影響を与えているのかということまでは具体的にわかっていません。しかし、胎盤に関する内容が多いことに関しては、体外受精の移植の段階で子宮内膜を育てるための薬を使っていることが影響していると考える医師もいます。
体外受精の採卵過程では、質の良い卵を作るためにホルモン投与などを行うことがあります。この薬の影響やもともとの体質により、本来排卵に向けて厚みが増していくはずの子宮内膜がなかなか厚くならない人がいます。受精卵が着床するにはある程度子宮内膜に厚みがあったほうが良いと考えられているため、やはりホルモン投与によって子宮内膜を育てていくというのはメジャーな方法です。
しかし、一般的には自然妊娠した人の着床時の子宮内膜の厚みを測るということはありません。そのため、実際子宮内膜の厚みだけが着床に与える影響がどの程度なのかということは、厳密にはわかりません。そのため、体外受精において子宮内膜の厚みが増していることが、着床には良い影響を与えてもその後に妊娠過程でこのような胎盤由来の問題につながる可能性を指摘する意見があるということです。
体外受精は妊娠糖尿病の原因になる?
すでにご説明した出産のリスク以外に、代表的な妊娠中のハイリスク症状といえば切迫流産や妊娠高血圧症、妊娠糖尿病などがあります。なかでも、体外受精を経て妊娠した人は妊娠糖尿病になる確率が高いというデータがあるため、体外受精と妊娠糖尿病の関係について考えてみましょう。
体外受精によって妊娠糖尿病が増加するとは断定できない
生殖医療に関する論文やデータはたくさんあり、たとえば冒頭でご紹介した、2019年に発表された国内全国規模の大規模コホート研究であるエコチル調査の結果では体外受精と自然妊娠において妊娠糖尿病の発生数は有意な差が見られない結果となりました。妊娠や出産のリスクは人種による影響などもあるため、今後も継続的かつ多角的な研究が望まれます。現時点ではデータによっても違いがあり、体外受精によって妊娠糖尿病が増加するとは言い切れません。
体外受精と妊娠糖尿病の因果関係として考えられる可能性をご紹介します。
そもそも高血糖になりやすい人が排卵障害を起こしやすい可能性がある
その理由まではわかっていないのですが、そもそも糖尿病の人は月経不順や排卵障害を起こしやすいというデータがあります。糖尿病の人は食前・食後ともに血糖値が高い傾向がありますが、糖尿病の診断を受けていない人の中には食後のみ血糖値が上がりやすい人も存在します。そのため、そもそも食後血糖値が高くなりやすい人が不妊になりやすいという仮説を立てることができますが、不妊の検査として食後血糖値を参考にすることは少なく、原因不明の不妊として分類されている可能性があります。
一方、妊娠糖尿病のひとつの判断材料に、食後血糖値の数値を採用しています。つまり、体外受精を経ての妊娠が妊娠糖尿病の原因になるのではなく、そもそも食後血糖値があがりやすい人が体外受精によって妊娠したという可能性もあるということが考えられます。
安全な出産のためには血糖コントロールが重要
体外受精を経ての妊娠か否かに関わらず、日本では一般的な妊婦健診の一貫として血糖検査を行っています。妊娠糖尿病になると高血圧になる可能性も増え、その場合妊娠高血圧症になり母体の安全性が保てなくなることがあります。ただし、高血糖な人すべてが高血圧になるわけではなく、妊婦検診では常に血圧の経過も見るため、妊娠糖尿病の人すべてに母体の危険性が伴うということではありません。
また、妊娠糖尿病の状態では胎児に過剰な栄養が送られているため、胎児が通常と比較して大きく育ちすぎることがあります。自然分娩の場合に胎児が大きくなりすぎると、産道を通りにくくなり出産時に時間がかかるなどリスクが高くなる可能性も考えられます。
妊娠糖尿病は胎児の健康に大きな影響を及ぼすことがある
妊娠糖尿病は、母体よりも胎児の健康に及ぼす影響のほうが大きいといえるものです。一般的には誰でも食事をすると一時的に血糖値が上がりますが、体内でインスリンが分泌されることにより血糖値が抑制されます。しかし、そもそも妊娠中は胎児に栄養を送ろうとする働きのため、インスリンの分泌が正常に行われなくなることがあります。
すると、胎児は母体から過剰に糖分を送られている状態になると考えられます。母体から過剰に栄養を受け取っていた場合、出産後母体からの栄養が突然遮断された状態になり、低血糖をや黄疸など合併症のリスクが高くなります。つまり妊娠糖尿病は、母体よりも胎児への影響が心配される症状のひとつです。
妊娠糖尿病の診断を受けると食事療法や一時的なインスリン投与が必要になる
妊娠糖尿病と診断された場合、一般的にはまずは食事療法と血糖値の測定により血糖コントロールをすることになります。妊娠していない場合は血糖値を上げやすい炭水化物や糖分を控えたり、運動量を増やしたりということで血糖値をコントロールしますが、妊娠中は胎児にしっかり栄養を与えたり、運動によって母体に負担をかけたりしないためにも極端な食事制限や強度の高い運動はしにくいものです。そのため、場合によっては入院して食事管理を行うこともあります。
食事療法でも血糖コントロールが十分にできない場合は、一時的にインスリンを投与することもあります。一般的には出産後には血糖値が正常に戻ることが多く、インスリン投与も妊娠中のみ必要になることが多いです。
妊娠糖尿病だと総合病院での出産に限定されることもある
たとえば新生児のためのNICUや、通常糖尿病の治療を行う内分泌科を併設していない産院での出産を予定した場合などに妊娠糖尿病と診断された場合、総合病院に転院するケースは少なくありません。血糖値が高いことがわかった時点で転院になるケースや、食事療法で抑えられているうちは転院せずにすむケースなど、それぞれの状況は母体の他のリスクや産院の方針によって異なるため、まずは主治医の判断を仰ぎましょう。
希望の産院で出産できなくなることを残念に思う人も多いようですが、これは母体と胎児の安全を第一に考えてのこと。妊娠や出産に関するリスクを早期に発見できたということは、安全面ではプラスの要素です。
自己判断はせず、医師とともに安全な血糖コントロールを
結論として、体外受精が妊娠糖尿病のリスクになるか否かは今のところ明確に断定できるものではありません。安全な出産のためには確かに血糖コントロールが必要ですが、体外受精を経ての妊娠だからといって最初から過剰に血糖値を気にして、栄養バランスの悪い食事になってしまうと、他のリスクを高めてしまう可能性もあります。特に妊娠中は、つわりなどによって思うように食事がとれないこともあり、場合によっては「食べられるものを食べる」ということが重要になることもあります。
体重や血糖値のコントロールを安全に行うためには、自己判断はせずに医師や産科の栄養士によるアドバイスを参考にしながら、無理なく食事内容を検討していきましょう。

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