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「私は若いから大丈夫」は大間違い!近年増加している若年層の不妊

川口 優太郎先生

皆さんこんにちは。
船橋駅前レディースクリニック培養室長の川口です。

近年、日本で社会問題として取り上げられるようになってきた『晩婚化』ですが、その内容や具体的なデータについてはご存知無いという方が多くいらっしゃるかと思います。厚生労働省がまとめている人口動態統計において、女性の初婚年齢の平均は1980年代では24.5歳、1990年代半ばで26.3歳になり、最新(平成28年度)の統計では29.4歳と報告されています。

つまり30年の間に女性の初婚年齢は5歳近くも上昇したことになります。
そしてさらに、2020年には30歳を超えるのではないかとも考えられています。

晩婚化によって大きな影響を受けるのが、やはり妊娠です。

女性には、母子ともに妊娠から出産までを健康かつ安全に迎えることが出来る妊娠・出産適齢期というものが存在することは既にお伝えしておりますが、生殖医療における最大の敵は何と言っても『年齢』です。
特に、日本で不妊治療を受けている患者さまは他国と比較すると高齢の方が多く、平均年齢が高いことが知られています。
体外受精においては、37歳を過ぎると顕著に成績が低下し始め、40歳を超えると治療をして赤ちゃんが出生するまでの確率はたったの数%にまでなってしまうことが報告されています。

ここまでを聞いて、「じゃぁ、私はまだ若いし大丈夫!」「結婚も早かったし」「私には関係無いよね」と思った方!
その考えは、もしかすると大きな間違いかもしれません・・・。

実は近年、年齢に関係無く、若年層でも不妊に悩む方々が増えてきているということをご存知でしょうか?
今回は、最近特に増加傾向にある若年層の不妊に焦点を当ててお話ししていきたいと思います。

⚫︎「性感染症」がひきおこすリスク

︎なぜ、年齢が若いのに不妊に悩む方が増えているのか・・・
その理由の一つ目は、『男女ともに、若年層の性感染症が増加傾向にあること』です。

日本性感染症学会の報告によると、近年、特に増加しているのがクラミジア感染症です。

クラミジアは、クラミジア・トラコマチスという病原体によって引き起こされる感染症で、感染してもほとんどの場合で無症状であるため、知らず知らずのうちに感染が拡大してしまうということが懸念されています。
実は、「クラミジア感染」の有無を診る検査は、不妊治療を行う際の最初の検査としても導入されているんです。

というのも、クラミジア感染は、子宮頚部や卵管部に炎症を起こし、卵管の癒着や閉塞を起こすことから精子が卵管を登っていくことが出来なくなり不妊症になることが指摘されています。
また、適切な治療をしなかった場合には、子宮外妊娠や、胎児の結膜炎、肺炎などの発症につながってしまいます。

2016年の学会での報告によると、性交経験のある女子高校生の約15%、男子高校生の約10%が無症状のままに感染している可能性が高いとの見方を示しました。このことから、疫学的な観点からも、将来不妊症の原因になるとして注意喚起をし、25歳以下の女性へ積極的に検査を受ける
ように促しています。
クラミジア感染症の蔓延については、日本のみならず世界的に問題となっており、アメリカでは、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が中心となって学校教育の中にもこういったキャンペーンが取り入れられているそうです。

⚫︎誤ったダイエットは危険!

次に、若年層の不妊が増えている理由として考えられるのが『女性の、思春期における栄養状態の変化』です。
これを読んでいる方の中にも、過去に一度は‟ダイエット”に挑戦してみようと考えたことがある方がいらっしゃるかと思いますが、特に思春期になると、身体がふくよかになり、女性らしい身体つきに変わっていく中で「太っちゃった!」「痩せたい!」と焦って、ダイエットに励んだと
いう女性も少なくは無いはずです。
確かに、肥満状態は不妊症の直接的な原因となることが知られていますが、大人の女性への成長段階である思春期における過度なダイエットは、内分泌系に大きな負担を与え、ホルモンを乱し、生理のサイクルを狂わせてしまったり、無月経や無排卵を引き起こしたりする危険性が非常に高いのです。

これに類似しているのが、若いスポーツ選手・アスリートの女性です。よく、元アスリートの女性が「若いときに生理が止まった——」などとテレビで話していることがありますが、思春期に過度に身体を鍛えると、男性ホルモンが優位になることでホルモンバランスを乱し、生理不順や
無月経、無排卵を引き起こします。
近年では特に、女子高生など若い女性の間でダイエットがブームなようですが、この時期に一度でも生理周期が乱れてしまうと、後々取り返しのつかない事態になる可能性も十分にあります。
しかしながら、中学生や高校生では「将来子どもを産んで‥‥」なんていうところにまでは考えが及んでいませんので、生理周期の乱れをあまり重要だと捉えていないパターンが多いようです。

⚫︎若い男性の精子がヤバイ

最後に、若年層の不妊が増加している原因として挙げられるのが『男性の、精子数の減少』です。

実は、2017年に生殖医学会専門誌Human Reproduction (doi:10,1093, journal dmx022)において、特に40歳未満の若い男性の精子数が、過去50年の間で半減しているという非常に興味深いデータが報告されています。
この論文を発表した米・ニューヨークのマウントサイナイ医科大学のS.H.スワン教授は、昨今の
世界的な男性不妊患者の増加と結び付けて、比較的近い将来に精子減少のピークを迎えるのではないか?との見方を示しています。
スワン教授は、若い男性に精子数の減少が見られている一因を、私たちを取り巻く環境の変化であると考えています。
例えば、農薬やダイオキシンといった化学物質、喫煙・飲酒開始年齢の若年化、勤労時間の増延による過度なストレス、スマートフォンなどの普及による脆弱性電磁波の影響などです。
追加の検証が必要であるとはしながらも、50年前の平均値と比較して、精子濃度で52.4%↓の減少、総精子数では59.3%↓の減少があったことを報告しています。もちろん精子数が少なくなれば、それだけ妊娠の可能性も少なくなります。本研究で示されているように、若い男性の精子数の減少は、若年層の不妊患者の増加にも大きく関係しているわけです。

今回は、若い方でも不妊症に悩む可能性が大いにあること、そして実際に若年層の不妊症患者様が増加している現状についてお話ししてきました。とはいえ、やはり年齢が若い方の方が、クリニック受診をしていただき不妊治療をスタートすれば成功率も高く、妊娠のチャンスも増えていきます。
「私はまだ若いから大丈夫!」ではなく、若いうちから、正しい知識を身に付けて積極的に妊活
に取り組んでいくことがとても大切なのです。

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川口 優太郎先生

埼玉医科大学を卒業後、総合病院勤務を経た後に、国際基督教大学(ICU)大学院博士前期課程へと進学。アーツ・サイエンス研究科にて生命科学を専攻。大学院修了後は、加藤レディスクリニック(新宿区)に勤務。同クリニックの系列病院となった中国上海永遠幸婦科医院生殖医学センターへ出向し、病院の立ち上げに携わるとともに、現地スタッフの育成・指導や培養室の運営などを行う。その後、2018年に東京都渋谷区に新規開院となった桜十字渋谷バースクリニックに培養室の立ち上げスタッフとして赴任。培養室主任を務め、指導要領の作製や培養室の運営管理とともに、生殖医療関連のセミナーにて講演を行うなど、精力的に活動。2020年に、総合的な妊活サポート行うリプロダクティブサポートファーム東京を設立し、代表に就任。