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【体験談】不妊治療を経て得た、夫婦の絆。「不妊治療をしていた頃の私に伝えたいこと」 | Marbera
今井 さいこ先生
2019/10/28
こんにちは。心理カウンセラーの今井さいこです。
私は現在、妊活支援をする立場にいますが、かつては不妊治療に身を投じていた1人です。
自然妊娠へのこだわり、不妊を受け入れられない気持ちから随分遠回りをした時期がありました。
でも、子宮外妊娠での卵管切除手術を皮切りに、不妊治療(体外受精、顕微授精)、帝王切開での出産、産後の子宮動脈大量出血に対する塞栓術緊急手術など、常に医療の恩恵を受け、命を救われ、新しい命に出会う経験をしてきました。
今回は、これらの経験を通して母になった私が「不妊治療をしていた頃の私」に伝えたいことを一体験談として書いていきます。
読者の皆さまの「未来に目を向ける」きっかけになれたら嬉しく思います。
私は母になる!可能性を信じて
不妊治療に踏み切る前、温活に力を注いだり、食事にとにかく気を遣ってみたり、漢方に頼ってみたり、いろいろなことをしていました。目的は、「自然妊娠をすること」!自然妊娠のためには、健康体でなくてはいけないと考え、そういった情報には飛びついていたように思います。
「〇〇をすれば、妊娠するかもしれない!」
そんな軽い気持ちで始めたことがいつしか、
「1つでも止めたら妊娠しないかもしれない!!」
「とにかく続けなくては!」
という強迫観念から止められなくなり、生活の中心が妊活になっていったのです。
それでも、妊娠をし、そのことで報われたような気持ちになっていたのですが、その妊娠が子宮外妊娠。
「あれだけの頑張りはもうできない」
手術後、真っ先にそう思いました。気力も体力も失った私は何から始めるか、とても悩みました。
なかなか行動は決められなかったものの、1つだけその時に決めたことがあります。
それは、
『絶対に母になる』
ということ。
もちろん、卵管を1つ失った私は、母になれない可能性もありました。でも、もしなれる可能性が少しでもあるなら、自分が子どもを持つことを諦めるまでは私が私の“母になる可能性”を信じる、と決めたのです。
無意識ではありましたが、この時の決断は『自己効力感を高める』結果につながったと思います。
“自己効力感”とは、「自分はその物事を達成できると信じる力」のことです。不妊治療においては「妊娠をして、母になることを自分で信じる力」と言えます。
自己効力感を高める4つの源泉の1つに“言語的説得”があります。これは、「私はできる!!」と言葉で自分に言い聞かせをすることなのですが、「母になる!」と思い続けたことで、うまく結果が出ないとき、停滞するときでも「でも大丈夫!」と必要以上に落ち込まずにいられるようになりました。
「もしかしたら、子どもを持つことを諦めなくてはいけないかも・・・」
そんな不安が大きい時には、この“自己効力感”を高めることに少し意識を向けてみてください。
「この人と2人で生きていきたい・・・」
「子宮外妊娠」になったとき、始めに通院した病院ではなぜか3週間も「子宮外妊娠」の判定をしてもらえませんでした。体調も顔色もどんどん悪くなり(常に出血していたため)、満員電車で気絶しかけたこともありました。
そんな私を見かねた夫が通院先の医師に「いつまで通い続けたら(何かしらの)判断をしてもらえるのでしょうか。」と詰め寄ったため、しぶしぶ大きな病院への紹介状を書いてもらうことができました。大病院には朝一で受診し、その場で子宮外妊娠の診断、午後一で手術となりました。
生まれて初めて車いすに乗せられ、包帯を巻くようなケガもしたことのない私はとても戸惑いが大きかったです。そんな時に一番頼りになり、私の心に寄り添い続けてくれたのは夫でした。
手術の連絡を受けると、すぐに仕事を抜け出して、私のそばで励まし続けてくれ、全身麻酔から覚めた一瞬では手を握って「頑張ったね」と声を掛けてくれました。
その後、この手術の合併症で髄液漏れを起こし、激しい頭痛と嘔吐を10日ほど繰り返すことになるのですが、その間も合併症の原因をめぐって病院と幾度となく話し合いを重ねてくれたりして、これまで以上に信頼できる存在になりました。
それまでの妊活の中ではすれ違うことも多く「子どもが欲しくてこの人と結婚したんだろうか・・・」と自分の気持ちが分からなくなることさえありましたが、このときに「子どもがいる、いないは関係なく、この人と2人で生きていきたい!」と心の底から思えたのです。
夫婦の妊活プランで不妊治療を楽しめた
妊活を本格的に再開したのは子宮外妊娠から3ヶ月後です。と言っても、ゆるくタイミング法をしていました。体力を戻すことを優先し、仕事が忙しい月は休むように。理由は、不妊治療(体外受精)へのステップアップを夫と話し合って決めていたからです。医師の話も参考にして、2人で不妊治療に向けた計画を立てました。
・予算は100万円
・クリニックの説明会に出て、納得できるところに決める
・クリニックにはなるべく2人で通院する
この3つを決めて、クリニックを探しました。予め予算を決めていたので、HPの料金表を比較したり、ブログで体験談を探して読んだりして、候補をかなり絞って説明会に参加。1つ目のクリニックの方針などが夫婦ともに気に入り、すぐに予約をしましたが4ヵ月待ちでした。
実際に通院を初めて、予想外だったことは、HPに記載されている以外の事前検査だけで10万円以上がかかったこと。「治療が始まる前にこの金額。この調子で想定外の診察代や薬代がかかったら予算が足りない!」と危機感を募らせたことは言うまでもありません。
ただ、夫婦の妊活プランとして予算を基準に治療の終わりを作ったことで、私たちは「後悔のないように」と焦ることなく1歩1歩進められました。
私は今でもクライエント様には「夫婦で妊活プランをつくりましょう」という話をします。不妊治療の指針(=妊活プラン)を持つことで、感情に流されることなく不妊治療を着実に進めることができるからです。私たち夫婦の妊活プランには前提条件がありました。それは、子宮外妊娠をした経験を通じて「夫婦2人で生きていくことも楽しい未来の1つ」と未来への選択肢を広げらたことです。夫婦2人の未来への楽しみがあるから、不妊治療を1つの過程として楽しむことができましたし、予算も決めることができました。
妊活プランを持っていないご夫婦は、ぜひお2人の価値観や不妊治療への想い、現実的な面から予算のことなど話し合って、後悔のないプランを作ってみてくださいね。
遺書を書きながら「生きること」を心に決めた
一般的に、子宮外妊娠は全妊婦の2%と言われています。また、全身麻酔手術により髄液漏れを起こす確率は1%ぐらいと医師から言われました(正確な確率は私も調べたことはありません)。この稀な経験を経て、私は1%と言われても「自分の身に起こること」と捉えるようになっていました。そのため、不妊治療でのあらゆるリスクも自分には怒るのではないか、とビクビクしていました。
実際に、不妊治療がうまくいき、滞納確認をしても、心拍確認をしても、クリニックを卒業しても、母子手帳を交付されても、一切喜びの気持ちが起きず、「今回も良い方に転がってくれた」と安堵するだけでした。
そんな私なので、お腹の赤ちゃんが逆子で帝王切開と決まったときには、「帝王切開での出産で命を落とす可能性もあるかも」と考え、入院前に身の回りを整理し、前日に病室で遺書を書いていました。書きながらいろいろ考えているうちに、「あれ、夫と2人の生活をもっと楽しみたいと思っていたはずなのに」と妊活プランを作ったときの気持ちを思い出します。人生の目的を果たしていないと気づいたら、だんだん死んでいられない気持ちが強くなり、「私は死なない!だから遺書はいらない!」とその場で破いて捨てました。
翌日、夫にそのことを話すと笑っていましたが、手術前に夫から渡された手紙には、その私の気持ちに応えるかのようにこれまで2人で乗り越えてきた数々の出来事への感謝の気持ちがつづられていて、とても感動しました。
様々な経験を経て、妊活支援の中で大切にしていること
妊活支援をしながら一番強く思うことは、目の前のクライエント様の「親になる」という願いが叶いますように、ということです。そして、同じぐらい大切に考えていることは「夫婦関係が最高の状態で出産できるようにサポートする」というです。
出産を機に夫婦関係がうまくいかなる人もいます。「子は鎹」という言葉がありますが、子という鎹がなくてもお互いを想い合い、支え合い、理解できるように、時には努力する必要もあります。元は他人同士、何かのきっかけで夫婦として成り立たなくなってしまうことも出てくるのです。
不妊治療の目的はきっと「妊娠すること」でしょう。でも、妊娠することだけではなく、不妊治療を通じて夫婦で得られるものにも目を向けると、夫婦2人の時間を楽しむ心の余裕やありがたみ、楽しさを感じられるようになります。
不妊治療は薬の副作用などで体調やメンタル面に影響を与えることもありますが、そういった辛いときにパートナーが当然のように寄り添う関係づくりをぜひ目指してくださいね。
人生100年時代と言われていますが、どれでけ寿命が延びようと「今は今だけ」です。
人生を幸せな時間の連続にできるよう、落ち込んだり悩んだりするときにはその気持ちをケアすることを意識してみてください。
奇跡的に出逢って愛を誓い、夫婦になったのですから、運命共同体です。
これからのお互いの人生を豊かにする経験の1つとして不妊治療を捉え直し、今よりさらに夫婦関係を良いものにしていきましょう。
今井 さいこ先生
心理カウンセラー/公認心理師/マインドフルネス認定講師/睡眠指導者 高校生の時「環境が心に与える影響」に興味を持ったことから、大学で心理学を専攻。その後、社会人としてベンチャー企業に勤める傍ら、心理カウンセラーとしての勉強と実践を積み、2009年から女性向けのカウンセリングを始める。2013年からの5年間、妊活支援に特化したメンタルケアサービスを提供。現在は、「ライフイベント×仕事」を軸に働く女性の両立支援サポートに注力。30~40代女性向け個人カウンセリングの他、法人向けに、従業員のメンタルヘルスサポート(カウンセリング、ストレスチェックなど、各種研修など)やコンサルテーション、メンタルヘルスサービスのアドバイスなどをおこなっている。